ニホンジカ管理に必要な知見

 近年、ニホンジカ(以下ではシカと表記します)による生態系への影響が各地で報告されています。このような影響を緩和するために、様々な管理が実施されています。

 ここでは、そのようなシカ管理に役立つ研究成果の一部をご紹介します。


シカの個体数を推定する方法を明らかにしました

なぜこの研究が必要か?

シカの数を管理するためにはシカの数を知る必要があるが、野生のシカの数を管理に適した時間及び空間スケールで推定する方法がこれまで存在しなかった。

 

研究でなにをしたか?

山梨県で収集されていた狩猟カレンダー、糞塊調査、区画法調査、捕獲個体数、5kmメッシュ単位の景観要素(森林の割合、常緑樹林の割合、人工草地の割合)から、年かつメッシュごとのシカの個体数を推定するモデルを開発した。

 

何を明らかにできたか?

年かつ5kmメッシュ単位でのシカの個体数。シカの増加率は人工草地の割合が高い場所で高いこと。

 

元論文

Iijima et al. (2013) Journal of Wildlife Management 77(5): 1038-1047.

シカの環境収容力は場所によって異なることを明らかにしました

なぜこの研究が必要か?

シカにとって好適な環境を明らかにすれば、そのような場所で集中的な個体数管理や生息地管理を行うことで、効率的にシカによる影響を提言できると考えられる。しかし、シカにとってどのような環境がどの程度好適なのか明らかにした研究はこれまで存在しなかった。

 

研究でなにをしたか?

Iijima et al.(2013)のモデルを拡張し、個体数と同時に5kmメッシュごとの環境収容力を推定するモデルを開発した。

 

何を明らかにできたか?

年かつ5kmメッシュ単位でのシカの個体数。シカの環境収容力は、落葉樹林及び人工草地の割合が高い場所で高いこと。

 

元論文

Iijima and Ueno (2016) Journal of Mammalogy 97(3): 734-743.

シカは捕獲を続けると捕獲を避けるようになることを明らかにしました

なぜこの研究が必要か?

シカの捕獲が各地で進められているが、捕獲を続けることでシカが警戒して捕獲しにくくなる可能性、及び元々警戒心が高い個体だけが残り、捕獲効率が低下する可能性がある。しかし、この現象を実際のデータで定量的に示した例はこれまで存在しなかった。

 

研究でなにをしたか?

シカの捕獲効率と前年の捕獲努力量の関係を、Iijima et al.(2013)のモデルによる個体数も考慮して解析した。解析は銃猟とわな猟別に行った。

 

何を明らかにできたか?

銃猟の捕獲効率は、シカの個体数によらず前年の捕獲努力量が大きいほど低下した。これは、銃猟をするほどシカが捕獲しにくくなっていることを意味する。一方、わな猟ではそのような傾向は見られなかった(ただしこれは、今回の解析対象地域ではわな猟がそれほど行われていないことによる可能性がある)。

 

元論文

Iijima (2017) Wildlife Biology wlb.00329.



シカの数と植生への影響の関係を明らかにしました

なぜこの研究が必要か?

どの程度シカがいると植生にどのような影響が現れるか明らかにすれば、植生の保全や今後シカが進出する地域における保全優先度をつけることができる。

 

研究でなにをしたか?

山梨県有林の天然林の344林分で、木の皮はぎの有無、林床植生の被度、摂食痕の有無、高さを測定した。そして、同時に測定した林冠の空き具合、Iijima et al.(2013)で推定したシカ密度、30年間の平均の年最大積雪深の影響を検討した。

 

何を明らかにできたか?

シカが多いほど木の皮はぎが発生しやすく、林床植生(特にササの場合)に摂食痕が発生しやすく、植生の高さは低かった。また、積雪深が深いほど木の皮はぎは発生しやすかった。

 

元論文

Iijima and Nagaike (2015) Ecological Indicators 48: 457-463.

亜高山帯針葉樹林の更新へのシカの影響は草原付近で深刻であることを明らかにしました

なぜこの研究が必要か?

亜高山帯はアクセスが困難であるため、亜高山帯のどのような場所でシカによる影響が発生しやすいかを明らかにする必要がある。

 

研究でなにをしたか?

南アルプス国立公園双児山、栗沢山、仙丈ヶ岳の標高2000mと2500m付近で、木の皮はぎの有無、稚樹の本数と皮はぎの有無を測定した。そして、これらのシカの影響と木の大きさや最も近い高茎草本群落からの距離の関係を解析した。

 

何を明らかにできたか?

高茎草本群落から近い林分ほど稚樹が少なく、木に皮はぎが発生しやすかった。

 

元論文

Iijima and Nagaike (2015) Forest Ecosystems 2: 33.